♪フルートの練習時間と休憩について。

 フルートを上達するために、毎日練習することは欠かせません。

練習時間が短すぎれば上達は遅くなりますし、逆に長すぎるからといって上達が早まるわけでもありません。

この記事では、フルートを一日にどのくらい練習すれば良いか、何人か演奏家の意見を参考に考察してみました。

普段の練習時間を見直す小さなきっかけになれば幸いです。


私の練習時間


私がフルートを始めたばかりの小学生だった頃、1週間に3度ほど、気が向いたらフルートを吹いていました。

とある小学6年生の夏休み、地元のオーケストラの合宿に参加しました。ハンガリー舞曲第5,6番や運命、新世界などといったプログラムでしたが、ほとんどちゃんと演奏できず悔しい思いをし、それからは自然と毎日1時間はフルートを吹くようになりました。

毎日練習するようになった頃からはどんどん上達し、音楽大学の受験を目指していた高校生の頃には、学校から帰ってきて3時間、休日は6時間ほど練習していました。


音大に入ってからは、とにかく毎日8時間は練習しようと決め、頑張っていました。

ドイツに留学してからは、10時間以上練習している日も珍しくありませんでしたが、だんだんと身体に支障が出るようになり練習時間を減らしました。

オーディションをたくさん受けていた頃は、3時間ほど練習していました。

オーケストラに入ってからは、3時間以上練習しないように注意しています。もちろん、忙しいときにはそれ以上練習する日もありますが、無駄に練習していると本番でのパフォーマンスに影響するので吹きすぎないように気をつけています。


どのくらい練習すればよいか、巨匠たちの意見では...


プロを目指す人はどのくらい練習すれば良いか、偉大な先人の意見を見てみよう。

バロックの大家クヴァンツは、午前中に2時間、そして午後に2時間ほど練習すれば良いと述べている。

サー・ジェームス・ゴールウェイは、どんな時にもひたすら練習するよう自伝の中に記しています。

パリ音楽院でエマニュエル・パユの先生でもあったミシェル・デボストは、詳細な練習メニューを著作『フルート演奏の秘訣』の中で紹介しています。


音階と跳躍の練習に1時間、エチュードや分散和音を一時間ほど、あとは曲に充てて、時間が余ったら初見やオーケストラスタディを必要なだけ。

私は高校生だった時に、三上明子先生のレッスンでデボストの本を教えていただきました。

折に触れては読み返している名著です。

プロを目指す方には、必読の本だと思います。


年齢と練習時間


当たり前の事ですが、最適な練習時間は人によって異なります。年齢を重ねるごとに、練習時間や内容を変える必要があります。

例えば10歳の子供と、20代後半の新進気鋭なプロとでは、練習量は必然的に違ってきます。

音大生でも、コンクールや試験前と、夏休みとでは練習量は違ってくるでしょう。

練習時間だけでなく練習内容も、趣味でフルートを楽しんでいる方、音大を目指している中高生、音大生、先生、ソリストでは違ってきます。


歳をとってから長時間練習すると、手が痛くなったり肩が凝ったり耳鳴りがしたり等々、あちこちに不具合が出てきます。

若い頃と変わらぬ練習量を保っている老演奏家もいますが、そのような猛者は例外です。


その日の身体の調子によっても、練習時間は違ってきます。

調子の良い日には楽しいからたくさん練習するし、逆に全く集中できずにダラダラとしてしまい、ただ時間だけが過ぎてゆくときもあります。

集中力を欠いたまま長時間吹いても、あまり上達しないでしょう。


逆にどんなに良い練習でも、練習時間が不足すればやはり上達が遅くなります。

そのような理由から、自分にはどんな練習がどれくらい必要なのか知ることが、上達の最も有効な手がかりになると思います。


練習と休憩


フルートを吹いていると楽しくて、ついつい何時間も休まずに練習してしまうことがありませんか?

一度集中してしまうと、中断して休憩する事は効率が良くないような気がします。

しかし、毎日の練習で休憩する事を疎かにしていると、段々と疲労が身体に蓄積します。

結果的に、精神は集中しているにも関わらず、身体が思うようにコントロール出来なくなります。

結果が出なくなり、ますます練習時間を長くしなければという悪循環に陥ることもあります。

長時間練習を頑張っているのに結果がなかなか出ないという方は、一度、練習時間や内容を見直す必要があると思います。


時間を決めて練習する


オーケストラの場合、リハーサル時間は厳密に決まっています。

指揮者は、決められた時間内で最大の結果が出るよう努力します。


しかし、個人練習ではやらなければいけない事を、やりたいだけ出来ます。

それはそれで素晴らしい事なのですが、長い目で見ると無計画な練習はあまり効率的ではありません。

基礎練習やエチュード、譜読み、曲に充てる割合をある程度決めておくと、効率的に練習にすることができるでしょう。


往年の巨匠ペーター=ルーカス・グラーフの「チェックアップ」という基礎練習の本には、分刻みの練習スケジュールが紹介されています。

時間に細かい方は、ぜひチェックアップを参考にすると良いでしょう。

ズボラな私には、厳密すぎて続きませんでしたが。


練習しない事も大切


煮詰まったり、練習が嫌になってしまった場合には、しばらくフルートを休むことも良いでしょう。

2,3日フルートを吹かない日を作ると、新たにフルートの魅力を発見することも珍しくはありません。


これは極端な例ですが、私は昨今の外出制限で1ヶ月ほどフルートが吹けないことがありました。

その時期にはフルートの音を出さなくても出来る、指や唇のトレーニングをしていました。

おかげで外出制限が解除された直後に演奏会がありましたが、無事演奏することができました。そして個人的には絶好調でした。

これはオーディションをたくさん受けていた時期に、私が編み出した練習方法です。

こちらは、後日まとめて記事にできればと思っています。


妥協も大切


できるだけ短い時間で練習を終えるよう心がけるのは、とても重要です。

フレーズを何度も満足ゆくまで繰り返して練習することは、効率的な練習方法ではありません。どうしても上手くできない事は、何度も繰り返し練習するのではなく、リズム練習や音名を歌ってみるなど発想を変え、違う角度から練習すると良いです。

3回演奏してうまく出来なければ、ゆっくりとリズム練習をするなど発想を変えましょう。


完璧主義は禁物です。

完璧を求めて長時間練習していると、疲れが蓄積してしまい、演奏会中に身体をうまくコントロールできなくなります。

指が普段よりも回らなくなったり、耳の聴こえ方にも悪影響します。

あるフレーズが完璧に演奏できなくてもある程度のところで妥協する事は、結果的に効率的に練習をこなすことになります。今できなくても、後でできるようになれば問題ありません。

あとは、本番での己の集中力と火事場の馬鹿力に全てを委ねましょう。


プロを目指す方に


プロを目指す中高生、音大生などは、出来るだけたくさん練習するほうが良いと思います。

若いうちに自分の限界を知っておくと、何をどのくらい練習すれば一番効率が良いか知ることができます。

限界まで練習すれば自信がつき、本番で緊張することも少なくなります。

そして本番で緊張することが減れば、練習時間を減らしても本番で上がることは無くなります。

長時間練習できるのは、体力のある若いうちだけです。


最後に


忘れてはならない重要なのは、フルートを吹くことだけが練習では無いという事です。

演奏しなければならない曲の伴奏を、ピアノで弾いてみるだけでも大きな発見があります。

楽譜を読んで分析したり、音源を聴いたり、作曲家について調べたりすることも、フルートを練習と同じくらい重要です。

良い音楽的なセンスを養っておくことは、演奏だけでなく人生も豊かにします。

自分の演奏が悪趣味になっていても、自覚できないと演奏家としての将来が困難になります。


本を読んだり、絵画や映画を観たり、美味しいものを食べたり、よく寝る等、人生の様々なことが、自身の演奏に反映されます。

余裕のある、豊かな心から紡ぎ出される音楽は、自然と美しいものになります。



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